大坂なおみ選手、全仏と全英についてBBCに語る 「ジョコヴィッチに助言求めた」

著者 古川 浩史

テニスの大坂なおみ選手は、23歳ですでに全豪オープンと全米オープンで2度ずつ優勝している。だが、グランドスラム(4大大会の全制覇)の偉業を達成するには、近く開幕する全仏オープンと、全英オープン(ウィンブルドン)での優勝が必要だ。実現への思いや、コート外での活動について、大坂選手がBBCに語った。

「すべての子どもが、4大大会全部で優勝したいと思いながら成長します」。女子テニス世界ランキング2位の大坂選手は、ビデオ回線を使ったインタビューでそう話した。

ただ大坂選手は、フランス・パリのローラン・ギャロスで開かれる全仏オープンの成績が芳しくない。これまでの最高は3回戦進出だ。

全仏オープンはクレー(赤土)のコートが特徴だが、大坂選手はそのクレーコートが苦手だと認めている。

2019年5月の全仏オープンの後は、クレーからしばらく遠ざかった。

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クレーに苦しむ

春はプロテニス界にとって、クレーのシーズンだ。今年、大坂選手は4月下旬にスペイン・マドリード入りし、クレーコートの大会「マドリード・オープン」に出場した。

クレーは実に2年ぶりだった。どんなに才能に恵まれた選手でも、それだけ間が空けば、慣れるのに時間が必要だ。

実際、大坂選手はマドリード・オープンで初戦には勝利したものの、2回戦で世界ランキング19位のカロリーナ・ムチョヴァ選手(チェコ)に敗れた。

その少し後に行われた今回のインタビューで、大坂選手は「先週の敗戦でちょっと落ち込んでいるのを自覚しました」と話した。

「そして、『こんなふうに試合に負けて落ち込んだのはいつ以来だろう』と考え始めました。そうしたら、しばらくなかったことに気づいたんです」

「(クレーコートで)足を横滑りさせるのはそんなに苦手ではありません。横滑りした後に動き出すのが、ちょっと難しいんだと思います」

インタビューの数日後、大坂選手はローマで開かれた「イタリア国際」の初戦で、ジェシカ・ペグラ選手(アメリカ)に敗退した。この大会もクレーだった。

ペグラ選手は後日、大坂選手がクレーコートで活躍できるかと問われると、「時間がかかるだけで、練習するしかありません」と答えた。

「もちろん、彼女はいいプレーができると思います。(ロシアの元世界ランキング2位のマリア・)シャラポワはクレーコート選手ではありませんでした。それでも全仏で2回優勝しました」

「(2011年の全仏オープンで優勝した)李娜を考えてみてください。中国人選手が全仏を制覇するなんて、私にすれば異常なことです」

今年の全仏オープンは今月30日に開幕する。

芝ではなぜ苦労?

一方、ウィンブルドンはグラス(芝)コートだ。この大会でも、大坂選手は最高で3回戦止まりだ。

芝では大坂選手の強いサーブが一段と威力を発揮する。ただ彼女は芝コートの経験が豊富ではない。ジュニア時代は芝の大会に出場しておらず、彼女の芝コートの経験は、初夏のころに集中的に開かれる芝の大会に限られる。

ウィンブルドン前哨戦の英バーミンガムと英イーストボーンの大会はともに芝コートだ。それらに出場することで、芝への慣れは増すだろう。

芝への適応力を高めてウィンブルドンに臨み、躍進できれば理想的だ。ただ、世界ランキング2位として出場した前回(2019年)は、初戦でユリア・プティンツェワ選手(カザフスタン)にストレートで敗れている。

「前年(2019年)は本当にすごく怖かったんです。以前(芝で)足を滑らせてけがをし、膝を痛めたことがありました。それがちょっとした心理的な傷となっている面は、間違いなくあります」と大坂選手は話した。

「これはちょっと笑える話なんですが、(男子テニスのノヴァク・)ジョコヴィッチにそのことを話しました。どうすれば芝であんなにうまく動けるのか、聞きたいと思ったからです。すると彼は、自分もよく転ぶけど、そのたび起き上がって別の方法を試してみるんだと言っていました」

「なので、次に芝コートに立つ時は、私もそうしようと思います」

ウィンブルドンは6月28日の開幕が予定されている。

コート外でも高まる存在感

米経済誌フォーブスによると、大坂選手の2019年の推定年収は3740万ドル(約40億円)で、女子スポーツ選手の中で最も多かった。

インスタグラムのフォロワーは220万人に上っている。その影響力を背景に、「Black Lives Matter(黒人の命は大事だ)」運動の支持を表明した。

昨年の全米オープンでは、戦った7試合すべてで、異なる名前が記されたマスクを着け、コートに入場した。警察や人種差別による暴力で亡くなったとされるアフリカ系アメリカ人の名前だった。

ただ、4大大会の期間中はたいてい、テニスのことだけを考えていると、大坂選手は言う。

「すべてのスイッチを切ってしまいます。私のエージェントは、よほど大事な用件でない限り、私にメッセージを送ってきません。私はただテニスに集中したいんです」

しかし、昨年8月には米ニューヨークであった大会を途中棄権しようとした。米警官がジェイコブ・ブレイクさんに発砲した事件への抗議だった。

それより前の昨年5月に、ジョージ・フロイドさんが警官のデレク・ショーヴィン被告に殺害されると、「私たちの声を通りに響かせる」として、わずか数日後に交際相手と共にミネソタ州に飛んだ。

大坂選手は、元警官が殺人と故殺の罪に問われ、裁判で有罪評決を受ける様子に注目していた。

判決が永続的な変化をもたらすかについては、「一晩で様変わりするような事ではないと思います」と話した。

「これがとても歴史的価値のあることだとは感じています。ただ、『ローマは一日にして成らず』です。一気にがらりと変わることは期待できないでしょう」

「人々に話をさせること、異なる視点と考え方を理解できるようになることが、素晴らしいスタートだと思います」

ファッションイベントのホストも

大坂選手は今年9月、ニューヨークで開かれるファッション業界の一大イベント「メット・ガラ」で、共同ホストを務めることになっている。全米オープンで望みどおり3度目の優勝を果たすとしたら、その直後の月曜日がその日に当たる。

俳優ティモシー・シャラメさん、歌手ビリー・アイリッシュさん、詩人で活動家のアマンダ・ゴーマンさんと共に、この大役を果たす予定だ。

「私は好んでパーティーを開くような性質ではありません」と大坂選手は話した。「パーティーを主催したことは一度もありませんし、実は行ったこともありません。あ、いえ、行ったことはあります」。

招待客の人選にどれだけ関われるかはわからないと言うが、歌手のビヨンセさんとリアーナさんが、彼女の希望リストのトップだという。

大坂選手はこれから、人々の注目の的となることに、かなり努力して慣れる必要がある。もともと恥ずかしがり屋の彼女は以前、2017年の全米オープンのロッカールームでセリーナ・ウィリアムズ選手を見つけた際には「壁に抱きついて」自分の存在を消そうとしたと、語ったことがある。

「(今もそうしたい気持ちが)完全に無くなったとは言えません」と大坂選手は話した。あれから4年がたち、4大大会シングルスで23回優勝しているウィリアムズ選手を2018年の全米オープン決勝で破っても、なおそうなのだ。

「今もファンなんです。ただ、もっと尊敬に近いものです。(テニスという)このスポーツに引き入れてくれた人々に感謝し、それらの人々がしてくれたことに感謝するような感じです」

では、ビヨンセさんやリアーナさんと遭遇したらとうなるのか。

「落ち着いてはいられないと思います。無理です」と大坂選手は言った。「でも今度は、ぎこちなくならないようにしたいです」。

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