アレックス・バイサウス、BBCスポーツ
ワールドカップ(W杯)日韓大会があった2002年、日本代表で海外でプレーしていた選手は、イギリス・アーセナルの稲本潤一やイタリア・パルマの中田英寿らわずか4人だった。(敬称略)
それが今回のカタール大会では、代表26選手のうち実に19人が海外チームの所属だ。イギリス・セルティックのFW古橋亨梧の驚きの代表落選と、同ハダースフィールドDF中山雄太の負傷による欠場がなければ、その数はもっと増えていたことになる。
「Jリーグとそのファンは、ヨーロッパに行ける選手をこれだけ出していることをとても誇りに思っている」と、日本の英字紙ジャパン・タイムズのダン・オーロウィッツは説明する。
「でもそれはもう特別なことではなく、当然のように思われている。(イタリア人の)アルベルト・ザッケローニが2010年に監督に就任すると、『西へ行け』とハッパをかけた」
行先で最も多いのが、ベルギーやドイツだ。ドイツでは現在、シャルケの吉田麻也やフランクフルトの鎌田大地ら8人がプレーしている。日本代表サムライ・ブルーはW杯の初戦で、ハンス=ディーター・フリック監督が率いるそのドイツと対戦し、衝撃的な勝利を実現した。
「日本の若手選手は能力が高い」。ヴィッセル神戸のMFでW杯優勝経験があるアンドレス・イニエスタは、BBCスポーツにそう語る。
「ダイナミックで、才能があり、身体的にも強い」
日本はこの先、コスタリカやスペインとも対戦する。特にスペインは、バルセロナで技術を磨き、レアル・マドリードに移籍、現在はレアル・ソシエダでプレーするMF久保建英(21)の「ホーム」ともいうべき国だ。
さらに、アーセナルのDF冨安健洋、イギリス・ブライトンの三笘薫、同リヴァプールの元FWで現在モナコ所属の南野拓実など、海外で活躍する才能あふれる選手が、日本代表にはそろっている。
日本代表を率いる森保一は、監督として日本最高の勝率を誇る。そして23日には、過去4度優勝のドイツを相手に、日本を勝利に導いた。
東京在住のジャーナリストのオーロウィッツは、「適切な指導があれば、日本は全てに勝てると言う人もいる」と話し、こう続ける。
「しかもそれは、意見として間違っていない。おそらくゴールキーパーを除いて、日本の選手層はこれまでで最も厚い」
「すべてのポジションに世界レベルの選手がいて、才能もある」
「世界水準のサッカー環境」を作る
これまで、日本人選手の海外移籍は、キャリアの遅い時期が多かった。そもそもプロになるのが、大学を出てからという人さえいる。ブライトンの三笘もその一人だ。川崎フロンターレでのトップチームへの昇格をいったん断って大学に進み、コーチングやスポーツ、栄養学を学んだ。
「15年から20年前だと、日本代表チームで活躍するには、25か26歳で、Jリーグで数シーズンいい結果を出す必要があった」と、前出のオーロウィッツは言う。
「今はヨーロッパのクラブは、日本人選手が本当に優秀なのだと知っている。たまたま何人かがきらりと光るだけではなく。だから欧州クラブは、日本の若手を狙っている」
Jリーグは、若い才能の発掘に意識的に取り組んでいる。2030年までに達成すべきこととして、「世界水準のサッカー環境」の創出を掲げている。その中には、各クラブがトップレベルの選手や指導者を育成するのを支援する「プロジェクトDNA」も含まれている。
前チェアマンの村井満も、選手たちのヨーロッパ行きを積極的に後押しした。いつか日本に戻った選手たちが、ヨーロッパでの経験をJリーグの発展に生かしてくれると願ってのことだった。
横浜FCのシニア・フットボール・エグゼクティブ兼テクニカル・アドバイザーのリチャード・アレンは、「本当に質の高い選手がいる」と言う。
「最高の選手にはヨーロッパでプレーしてほしいと思う一方で、その影響はJリーグに及んでしまう。もろ刃の剣だ」
イングランドのサッカー協会の元人材発掘責任者で、トッテナム・ホットスパーのリクルート部門トップも務めたアレンは、若い選手が一流選手を相手に自分を試す機会をもてるよう力を入れている。
「若い選手には多彩な経験が必要だ」とアレンは言う。「アーセナル、トッテナム、チェルシー、バルセロナ、レアル・マドリード、ユベントス。そうしたクラブでの経験と接触が、選手の成長には欠かせない」。
Jリーグは「アジアのプレミアリーグ」を自称する。たとえばタイでは、Jリーグは大人気だ。マリノスのケヴィン・マスカット(元オーストラリア代表)はじめ、外国人監督も多い。だが、アレンの言う「多彩」さは、現在のJリーグには存在しない。
近年はイニエスタ、フェルナンド・トーレス、ダビド・ビジャといったスペインのベテラン選手も活躍しているが、最も多い外国人選手はブラジル人だ。昨シーズンは56人がプレーした。
日本にとっての鍵は
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セバスチャン・モフェット著「日本式サッカー革命」(原題「Japanese Rules」)によると、1990年代前半に鹿島アントラーズに加わったジーコは、試合で負けた後に笑うチームメートたちを激しく批判した。自分が怒鳴る時には通訳も怒鳴るよう求めたという。
日本のサッカーは、企業リーグから発展してきた経緯がある。そのため、「対決的」な鋭さが欠けていると非難されてきた。ただ、その特徴は変わりつつあるようだ。
「日本人はサッカーを戦いではなく、スポーツととらえている」と、ジャーナリストの森昌利は話す。
「日本人は技術的にとても優れ、どんなスポーツにおいても創造的で、新たな戦略を作り出す。ただ、サッカーはすでにかなり発展し、グローバル化もしているため、そこで真新しい戦略を編み出すのはいささか難しい」
イギリスでプレーする日本のスター選手たちを追っている森は、アーセナルの冨安とブライトンのウイングの三笘を高く評価している。ともに、プレミアリーグで求められるフィジカル面の水準に達していることを示してきたからだ。
「冨安が極めて大事だ」と森は言う。「現時点で最高の選手だ。アーセナルではサイドバックだが、日本代表では中央でプレーする」。
「彼はフィジカルがとても強く、スピードもある。プレミアリーグで彼ほどフィジカルの強さを見せる日本人は、見たことがない」
現在の日本代表チームについて、ゴールを奪う決定力のあるセンターFWが不足していると言う人もいる。ブライトンがチェルシーに4-1で勝利した試合で大活躍し、ウルヴズ戦とアーセナル戦でも得点を挙げた三笘は、その役割を期待される。
「チェルシーとの試合の後、彼はとても強くなった」と森は指摘する。「イングランドで3試合続けてあれほどのレベルでプレーした日本人選手は、これまで見たことがなかった」。
「日本は4-2-3-1フォーメーションで、左サイドに久保、右サイドには(フランスの)ランスの伊東純也がいる。三笘はスーパーサブになるかもしれないが、先発すべきだと思う」
W杯7大会連続出場の日本にとって、いずれも鍵となるだろう。