ジャニーズ事務所、補償終了後に廃業へ 325人が補償求める マネジメントは新会社に

著者 小野寺 聡美

創業者の故ジャニー喜多川氏の性加害問題を受け、ジャニーズ事務所は2日午後2時から都内で記者会見を開き、今後の会社運営について説明した。性加害の被害者救済委員会に申し出があったのは478人、そのうち325人が補償を求めているという。

会見では、喜多川氏の名前を冠した社名の変更や、前社長の藤島ジュリー景子氏が保有する株式の取り扱い、被害補償の内容、所属タレントの今後などが焦点となった。

新社長の東山紀之氏のほか、チーフ・コンプライアンス・オフィサー(COO)に就任した山田将之弁護士、木目田裕弁護士、子会社ジャニーズアイランド社長の井ノ原快彦氏が会見に出席した。

藤島前社長は出席しなかった。

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会見冒頭、東山氏は「喜多川氏によって被害に遭われた方々、いまも苦しんでいる方々に改めて謝罪させていただきます。つらい思いをさせて申し訳ありませんでした」と被害者に改めて謝罪した。

井ノ原氏は、ソーシャルメディア等で、被害を訴える人への誹謗中傷が起きていることに触れ、「被害に遭われた方は本当につらい思いをして、1人でずっと抱え込んでいたと思います。それがようやく声を上げられた、その勇気を無駄にしたくない。その勇気があったからこそ、この会社が大きく変わろうとする動きになった。だからなにとぞ、誹謗中傷はやめていただきたい」と呼びかけた。

325人が補償求める

ジャニーズ事務所は被害補償の受付窓口として、9月13日付で、3名の弁護士からなる被害者救済委員会を設置した。

この日の会見で東山氏は、9月30日までに同委員会に478人の申し出があり、そのうち「被害を申告して補償を求めている人は325人」だと明らかにした。現時点で、過去にジャニーズ事務所に在籍していたことが確認されたのは約150人という。

補償は11月から開始するという。

補償額の算定について山田COOは、過去の判例などを前提に決めていくと述べた。

最後まで被害者救済し「廃業」

東山氏は社名について、9月7日の会見ではジャニーズ事務所の名前を残すと言っていたが、「それこそが、内向き体制と言われて、当然のことと思いました」とし、「反省とともに、再出発とはどういうものか、井ノ原とも真剣に討論を行いました。事務所、社名を変更いたします。タレントマネジメントおよび、育成の業務からは完全に撤退します」と述べた。

新社名は「SMILE-UP.」(スマイル・アップ)で、10月17日付けで変更される。

東山氏は社名変更後も代表取締役社長を務める。

注目されていた、藤島氏が所有する株式については、同氏が100%株主として取締役に留まると、東山氏は述べた。

「これは今後、法を越えた補償を行うには、第三者の資本を入れるとできなくなる」からだと説明。「被害者に遭われた方々の救済をきちんと最後まで行い、廃業いたします」とした。

東山氏は、「自分たちでジャニーズ事務所を解体し、被害に遭われた方と真摯に向き合い、最後まで補償を行い、新しい会社でファンの方々と一緒に新しい未来を切り開いていく。これが私たちのビジョンです」と述べ、タレントのマネージメント・育成業務などを行う新会社を設立すると発表した。

タレントと個別に契約する「エージェント会社」

東山氏によると、新会社は「希望するタレント個人やグループが設立する会社と個別に契約を結ぶ、エージェント会社」になる。

「この制度においては、全てを会社にゆだねたり、しばられたりすることなく、タレント自らがその活動の方向性に応じて、自分自身で活躍の場を求めていくことになります。新会社は彼らとエージェント契約を締結し、これまでに培ってきたプロデュース機能やマネージメント機能を活用して、お互いの知恵を出し合いながら、そのタレント活動を最大限サポートしていきたい」と、東山氏は述べた。

一方で、若手タレントなどはエージェント契約ではなく、新会社に所属することもできるとした。

新会社の代表取締役社長には東山氏が、副社長には井ノ原氏が就任する。

「藤島(ジュリー)氏は一切出資を行わず、取締役にも入りません」と東山氏は述べた。

井ノ原氏は、新会社の社名については「ファンクラブの皆様からの公募で決めていきたい」と話した。

ジャニーズ所属のタレントについては、先月の記者会見以来、複数の大手企業がコマーシャル契約を終了、もしくは新規契約をしない方針を示している。

それだけに2度目となる今回の記者会見で発表された、こうした事業内容の分割や、「ジャニーズ」を社名から外すなどの措置は、スポンサー企業の協力を得やすくするための措置とも受け止められている。

喜多川氏がつくったものを「閉じていく」

藤島前社長は会見に姿を見せず、井ノ原氏が藤島氏の手紙を代読した。

「どのように補償していくのがいいのか、加害者の親族としてやれることは何なのか考え続けています。そしてジャニーズ事務所は名称を変えるだけでなく、廃業する方針を決めました。これから私は被害に遭われた方々への補償や心のケアに引き続きしっかり対応させていただきます。ジャニーと(母)メリーが作ったものを閉じていくことが、加害者の親族として私ができる償いなのだと思っています」

藤島氏は社名変更後も100%株主として取締役に留任することについては、「他の方が株主に入ると、法を超えた救済が事実上できなくなると聞いた」ためだと説明した。

藤島氏はさらに、母親から会社を相続した際、「事業承継税制」を使って相続税の納税を猶予されていたことを認めたうえで、事務所の代表権を返上することでこの措置の使用をやめ、「速やかに納めるべき税金を、すべてお支払いして会社を終わらせます」と、代読されたメッセージで述べた。

「ジャニーズ事務所を廃業することが、私が加害者の親族として、やり切らねばならないことなのだと思っています。 ジャニー喜多川の痕跡を、この世から一切なくしたいと思います」と、藤島氏は表明した。

人権方針を策定

ジャニーズ事務所は会見に先立ち、ホームページ上に、グループ人権方針を掲載した。

チーフ・コンプライアンス・オフィサーに就任した山田氏は、「2度と人権侵害を看過せず、人権尊重責任を果たしていくため、グループ人権方針を策定」したと説明した。

内部通報制度の改革については、これまでは通報制度の利用対象者に所属タレントが含まれていなかったとし、「利用対象者を所属タレントも含めるかたち」にしたとした。

また、「これまで通報の受付窓口は会社内部に設けていたが、外部の受付窓口を設置することにしました」と述べた。

自分自身による性加害疑惑について質問された東山社長は、「まず私はセクハラをしたことはありません。パワハラを感じた方はいらっしゃるかもしれませんが。35~40年前のことでもありますし。僕自身、性加害ということについて理解するのが、ちょっと難しかったと思います」と言明した。

前回の記者会見後に企業が離れ

BBCは3月、喜多川氏に関するドキュメンタリーを放送。4月には事務所出身のオカモト・カウアン氏が記者会見し、性被害を主張。次第に国民的な議論となり、複数の事務所出身者が相次いで虐待の経験を語るようになった。

これを受けて、ジャニーズ事務所に対する世論の圧力が高まった。8月29日には、事務所側が設置した外部の専門家による「再発防止特別チーム」が調査報告書を発表。9月上旬にはついに、藤島氏が社長を辞任した。

藤島氏は辞任を発表した際、喜多川氏による性加害があったと初めて公に認めた。

しかし、「ジャニーズ」の社名を維持し、藤島氏が全株式の保有を続けるなどとした会見の内容に、世間の批判は続き、会見の翌日には飲料大手のアサヒグループHDが、ジャニーズ事務所のスターを起用したテレビとネットの広告を取りやめると発表した。

アサヒグループHDの勝木敦志社長は、「人権を損なってまで必要な売り上げは1円たりともありません」と朝日新聞に話した。

さらにその後も、キリンHD、日産自動車、日本生命保険、アフラック生命保険など複数の大手企業が、ジャニーズ事務所の所属タレントの広告契約を新規に結ばない方針や、契約終了の方針を示した。

公然の秘密

喜多川氏のスキャンダルは、強姦と性的暴行で有罪となったハリウッドの元大物映画プロデューサー、ハーヴィー・ワインスティーン受刑者の一連事件と、比較されることもある。

しかし、2019年に87歳で亡くなった喜多川氏は、日本国内で多くの人に崇拝され続け、その葬儀は国家的な行事だった。当時の安倍晋三首相からも弔電が届いた。

週刊文春による連続報道や暴露本での指摘はあったものの、疑惑は長年、芸能界の公然の秘密だった。

ジャニーズ事務所が週刊文春を名誉毀損(めいよきそん)で訴えた挙句、東京高裁は2003年7月の判決で、文春の報道について、「セクハラ行為」に関する記事はその重要な部分において真実であることの証明があったと認め、最高裁は2004年2月に上告を棄却した。

それでも、喜多川氏の行為は刑事事件として立件されることはなく、日本の大半の主要メディアも長年触れてこなかった。

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