サム・グルエ、ルーシー・フッカー、BBCニュース
イギリスで多数の郵便局長らが不当に有罪判決を受けたスキャンダルで、欠陥のある会計システムを郵便局に納入した富士通に対し、補償金を支払うよう求める声が高まっている。
被害者の一人のサリー・ストリンガーさんは、この問題が最初に表面化してから20年たった今も、富士通が英政府の契約を獲得し続けていることに憤っている。
富士通は、郵便局長らに苦しい思いをさせたことについて謝罪するとしている。
それでも、富士通に行動を求める声は高まり続けている。
鍵を握る人物の証言
富士通は、イギリスで郵政の窓口業務を担当する会社「ポスト・オフィス」にソフトウェア「ホライズン」を納入した。その欠陥が大規模な冤罪(えんざい)事件につながった。だが同社では誰も責任を問われておらず、被害者への補償金も一切支払っていない。
その一方で、富士通は英政府のITサービス関連の高額契約を獲得し続けている。
事件をめぐっては公聴会が重ねられているが、鍵を握る富士通の元チーフITアーキテクト、ギャレス・ジェンキンスさんはまだ証言していない。
ジェンキンスさんの裁判所での証言は、多くの郵便局長らの有罪判決を導く重要な要素となった。ポスト・オフィスの弁護士らは裁判で、富士通のITシステムが正しく機能していたと主張するため、ジェンキンスさんの証言を繰り返し持ち出した。
ジェンキンスさんは証言を前にこれまで2度、訴追免責を求めたが、判事役の公聴会トップはこれを拒んでいる。
リシ・スーナク首相は9日、「迅速に被害者の容疑を晴らして補償する」ための新法を政府が導入する方針を表明した。
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「補償に責任を負うべき」
冒頭のストリンガーさんは、数百人の郵便局長らと共に、経営する郵便局の精算機から金を抜き取ったとして告発された。ホライズンが現金の不足を示したためだった。ストリンガーさんはは5万ポンド(約930万円)を自分で埋め合わせた。
BBCのテレビ番組に出演したストリンガーさんは、「補償のいくらかに関しては(富士通が)責任を負うべきだ。(中略)ホライズンは欠陥品だ」と、ケヴィン・ホーリンレイク郵便担当相に訴えた。
議会のビジネス・通商委員会のリアム・バーン委員長ら有力政治家らは、迅速な対応を求めるストリンガーさんの訴えを支持している。同委員会は富士通幹部らに、来週の出席を求めている。
バーン委員長は、「無実の人々を刑務所に入れる情報を出すシステムに、企業が深く関与しているのであれば、補償に貢献する道義的義務があるのは当然だ」と述べた。
一方、政府は公聴会の結果を先取りするつもりはないとしている。
ホーリンレイク郵便担当相は10日、BBCの番組で、政府として調査結果が出るのを待つと説明。「その後に責任者に制裁を科す。それは起訴かもしれないし、税金から支払われる補償金に対して拠出を求めることかもしれない」と述べた。
高等法院は2019年、ホライズンには「バグ、エラー、欠陥」があり、郵便局での現金不足はシステムに起因しているとの「重大なリスク」があるとの判断を示した。
しかし、その後も富士通は政府の契約を獲得し続けており、それを疑問視する人も多い。
政府の契約などを分析している英タッセルによると、富士通は過去4年間で101件の契約を獲得し、総額は20億ポンドに上る。それには、ホライズンの延長契約の3600万ポンドも含まれる。
イギリス政府は、富士通を優先サプライヤーのリストから除外している。だが、通常のプロセスを経れば、同社は契約を獲得することが可能だ。
実際、富士通の製品は政府のITインフラに深く浸透している。この業界を長年取材してきたITジャーナリストのトニー・コリンズさんは、富士通を排除するのは不可能に近いだろうと話す。
「もし富士通がポスト・オフィスのプラグを抜けば、そういうことはしないだろうが、郵便局は機能しなくなる。政府は富士通なしでやっていけない」
コリンズさんによると、富士通は税務当局、歳入税関庁(HMRC)、労働・年金省などの政府機関に大規模なITシステムを提供しているという。
コリンズさんはまた、富士通が政府からの要求なしに、被害者の補償を決定する可能性があると述べた。
「富士通が拠出を真剣に検討する可能性はあるだろう。政府は大手ITサプライヤーを訴えるのを嫌う。公開の法廷に出て、かなり機能不全に陥っているかもしれない政府のスキームを明らかにすることになるからだ」
富士通幹部が証言へ
富士通の幹部は、議会委員会への出席が求められているのに加え、来週には独立した公聴会で質問を受ける見通しだ。
政府は、調査の結果が今後の富士通との契約に影響を与えうると示唆している。
富士通は、調査に全面的に協力し、20年前の出来事から学ぶとしている。
同社は声明で、「郵便局長とその家族の生活に壊滅的な影響を及ぼしたことが、調査で明らかになった。富士通は、その苦しみに関して自社が果たした役割について謝罪してきた」と述べた。
調査は2021年から続いている。先週、英民放ITVが事件のドラマを放映したことで、このスキャンダルは大きな注目を集めることになった。
ドラマは、15年間にわたって700人以上の郵便局長が、欠陥ソフトウエアのせいで虚偽会計、窃盗、詐欺の罪で有罪判決を受けた経緯を伝えた。
ドラマ放映と関連報道をきっかけに、さらに100人以上の潜在的被害者が新たに名乗り出ている。