フィリピン政府は26日、中国が同国と領有権を争う南シナ海の海域に設置していた浮遊式の障害物を撤去したと発表した。この障害物によって、フィリピンの漁船が海域に入れなくなっていた。
フィリピンの沿岸警備隊によると、撤去はフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領の命令で行われた。
また、スカボロー礁に置かれた全長300メートルの障害物で漁業権が侵害されたとした。
中国は南シナ海の9割以上について、領有を主張している。スカボロー礁は2012年に占有した。
中国政府は海警局(沿岸警備隊)の動きは「必要な措置」だと擁護している。
これに対しフィリピンの沿岸警備隊は、「障害物は航行に危険をもたらし、明らかに国際法違反だ。また、フィリピンの漁業従事者の漁業や生計を立てる活動の妨げにもなっている」と声明を発表。スカボロー礁は「フィリピンの国家領土の不可欠な一部」だと説明した。
フィリピン沿岸警備隊のジェイ・タリエラ准将によると、障害物は22日のパトロールで発見した。中国の海警局(沿岸警備隊)の小型船3隻と、中国の退役軍人や漁民らで構成する武装漁船団「海上民兵」の小型船1隻が設置していたという。
中国船は無線で15回にわたり挑戦的な態度をとり、フィリピンの船と漁民が国際法と中国の国内法に違反していると非難。その後、「(フィリピンの)船にメディア関係者が乗っていると気づくと」中国船は去ったと、タリエラ氏は話した。
日本の松野博一官房長官は25日の定例記者会見で、南シナ海の問題は「地域の平和と安定に直結する」と発言。同海域の「緊張を高めるいかなる行為にも、強く反対する」と表明した。
南シナ海は豊かな漁場で、膨大な量の石油とガスが埋蔵されていると考えられている。世界の漁船の半数以上がこの海域で操業している。
中国は南シナ海の陸地とその周りの海について領有権を主張。フィリピンだけでなく、ヴェトナム、台湾、マレーシア、ブルネイからも怒りを買っている。
中国はまた、島を建設し、海軍がパトロールすることで、権益の拡大を強化している。
アメリカは、領有権争いで特定の当事者を支持しない方針を示している。しかし、「航行の自由」に関連する活動だとして、係争中の島々の近くに軍艦や軍用機を派遣している。
米軍のアクセス拡大で
中国は2012年にスカボロー礁を占有。フィリピンの漁民は、遠くの漁場まで移動して、以前より少ない量の魚を捕る羽目に陥った。
その後、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の時代に両国関係が改善されると、中国はフィリピンの漁民に近くの海での漁を認めた。
しかし、フェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領の政権が昨年発足して以来、緊張が高まっている。
マルコス・ジュニア大統領は、アメリカと安全保障をめぐって関係を回復。今年になり、米軍のフィリピン軍基地へのアクセスを拡大した。
これについて中国は、アメリカの存在感がフィリピンで高まれば、北は韓国、日本から南はオーストラリアに至るまでの「同盟の弧」をアメリカが得ることになるとして、怒りをあらわにした。