ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が23日午後6時(ウクライナ時間午前11時)から、日本の国会でオンライン演説をした。ロシアによる侵攻が約4週間続く中、ウクライナ国内の惨状を訴えるとともに、ロシアに対する経済制裁を継続するよう日本に求めた。
ゼレンスキー氏のオンライン演説は、議員会館の2つの会議室で実施された。日本のメディアによると、本会議場にモニターが設置されていないことなどが理由。
岸田文雄首相、林芳正外相ら閣僚と、多くの国会議員らが出席した。ウクライナ国旗を傍らに立てたゼレンスキー氏が現れると、出席者らから拍手が上がった。
細田博之衆院議長が、「国民を鼓舞し続けている勇敢な姿勢に改めて敬意を表します」と、ゼレンスキー氏に向けてあいさつ。
続けてゼレンスキー氏が、ウクライナ語で約12分間演説した。NHKによると、ウクライナ政府が日本語に同時通訳した。
感謝と危機感を表明
ゼレンスキー氏は冒頭、「(ウクライナと日本の)両国の間には8193キロメートルがあります。飛行機で15時間もかかります。ただ、お互いの自由を感じる気持ちに違いはありません。生きる意欲にも差はありません」と説明。
「(ロシアの侵攻が始まった2月)24日にそれを実感しました。日本はすぐに援助の手を差し伸べてくれました。心から感謝しています」と述べた。
ゼレンスキー氏は、1986年に事故があったチョルノービリ(チェルノブイリ)原発や、ヨーロッパ最大のザポリッジャ(ザポロジエ)原発、石油パイプライン、化学工場などがロシアの攻撃を受けており、危険な状況が続いていると強調。
「サリンなどを使った化学兵器の攻撃も、ロシアがいま準備しているとの報告を受けています」、「核兵器が使われた場合の世界の反応が、世界中で話題になっています」と、ロシア軍の攻撃がエスカレートすることへの危機感を表明した。
制裁の継続を要請
ゼレンスキー氏は、「1000発超のミサイルが落とされ、数十の街が破壊されました」と説明。多くの街で、死者が出てもきちんと葬ることができず、人々は自宅の庭や道路沿いで埋葬していると述べた。
また、数千人が殺され、そのうち120人以上が子どもだと報告。住み慣れた家を出て避難している人も数多くいるとした。
ゼレンスキー氏は、国連などの国際機関が機能していないとも主張。「改革が必要です」、「話し合うだけではなく影響を与えるためにです」と訴えた。
その上で、「平和を壊してはいけないという強いメッセージが必要です。責任ある国家が一緒になって平和を守るために努力しなければなりません」と主張。日本は建設的な立場を取っているとし、謝意を表した。
さらに、日本について、「アジアで初めてロシアに圧力をかけ始めた国」とし、ロシアに対する制裁を続けるよう求めた。
ゼレンスキー氏は演説の最後、「ありがとうございます」と日本語であいさつ。「ウクライナに栄光あれ、日本に栄光あれ」と締めくくった。
欧米の議会でも演説
ゼレンスキー氏はこれまで、アメリカ、イギリス、ドイツ、カナダ、イタリアなどの議会でオンライン形式で演説をしてきた。ロシアの武力行使を強く非難し、民間人に多数の死傷者が出ている現状を説明。支援を要請してきた。
16日のアメリカ議会では、第2次世界大戦の真珠湾攻撃や、2001年9月11日の米同時多発攻撃に言及。「同じことを私たちの国は毎日、毎晩経験している」と訴えた。
22日にはイタリア議会で、南東部の港湾都市マリウポリについて、「何も残っていない。あるのは廃墟だけだ」とし、被害の深刻さを強調していた。