トマス・ダンカン、BBCスコットランド
東京パラリンピックに出場している、車いすバスケットボール女子イギリス代表チームのロビン・ラヴ選手(31)は、あることで頭がいっぱいだ。
「どんな状況でも楽しみにしているのは、晩ご飯は何かということ。『食堂はどんな感じだろう?』と考えているんです。他のことを考えたら、多分すべてのことに圧倒されてしまうから」
ラヴ選手が圧倒されるのは無理もないだろう。2012年ロンドン・パラリンピックまでは、車いすバスケットボールや、障害者スポーツ全般がどんなものか、まったく知らなかった。
その彼女がいま、パラリンピックで活躍している。
ここに来るまでの間、彼女はLGBTQ(性的少数者)の模範と思える人物をほとんど目にしなかった。まして、自分と同じだと感じる人は皆無だった。
彼女は現在、堂々とありのままの自分でいる。ここに至るまでの旅路はかなりのものだったが、ラヴ選手はユーモアと誠実さと共に、その旅路について思いを巡らせる。
彼女は下肢に関節拘縮症の影響がある。だが、スコットランドのエアで過ごした子ども時代は、いつも健常者と競っていた。その情熱と強い意志が、彼女にプラスに働いた。
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「若い頃は『障害者じゃない』と言っていました。でも私が本当に言いたかったのは、『あなたは障害者をわかっていない。私は何もできないわけじゃない。事実、私はあなたより優れている』ということでした」
障害のない子どもたちと競争するのは大好きだった。しかし今は、もっと多くの子どもたちがもっと早く、パラスポーツのことを知るべきだと強く感じている。彼女は当初、車いすバスケットボールのことを、常に車いすを使っている人たちだけの競技だと思っていた。
「生まれてからずっとスポーツをやってきて、とても得意でした。学校の体育は上級クラスで、大好きでした。体育教師になりたいと思っていたのに、パラスポーツのことは22歳でテレビで見るまで知りませんでした」
「そうしたことが、どれほど多くの人に起きているでしょうか。次のハナ・コックロフト(東京パラリンピックで陸上女子100メートルT34の3連覇を達成した選手)となる人がいるかもしれないのに、その彼女はパラスポーツを知らないんです」
「多くの子どもたちが今も図書室で多くの時間を過ごしています。状況は改善されていて、テニスや車いすバスケットボールなどの学校の大会は開かれています。でも、学校は全ての子どもたちをスポーツに参加させる努力をすべきだと思います」
「クィアを公表し堂々としている選手は多くない」
ラヴ選手は、東京パラリンピックに出場している過去最多のLGBTQ選手たちの1人だ。ウェブサイト「Outsports」(アウトスポーツ)によると、LGBTQだと公表している選手は、前回リオデジャネイロ大会の少なくとも2倍に上っているとされる。
この増加は、いくつかの競技で態度が変化していることを示している。LGBTQ選手たちにとって、自分たちらしくありながらどれだけ快適でいられるかは、置かれた環境によって決まると、ラヴ選手は考えている。
ラヴ選手と、パートナーのローリー・ウィリアムズ選手は昨年、ソーシャルメディアで婚約を発表。すると、好意的なメッセージが相次いだ。ウィリアムズ選手も、車いすバスケットボール女子のイギリス代表だ。
「幸いないことに、ここ数年、スポーツ界で公表する人が増えています。(英ホッケー選手の)ヘレンとケイト・リチャードソン=ウォルシュもそうです。私たちはあの2人から、自分たちらしくあることについて多くを学びました」と、ラヴ選手は言う。
「(米サッカー選手の)メガン・ラピーノと(米バスケットボール選手の)スー・バードからもです。私はサッカーとランニング・バスケットボールの大ファンなんです」
「でも多くの人にとって、簡単なことではありません。いつの日か、誰にとっても簡単なことになるよう願っています。私は、それが何であろうとありのままでいることが100%大丈夫なチームと、プログラムに参加しています。そのことをとてもありがたく思っています」
「私たちの婚約が話題になったのには、とても興奮しました。かなりいい感じでした。それまで5年間一緒にいましたが、私たちは情報をあまり表に出していませんでした」
「情報を共有するのは楽しいと、私たちは気づいたんだと思います。サッカーチームには、敵チームや別競技の選手が対象である場合も含め、恋愛関係にある女性選手たちがたくさんいます。(でも)クィアの障害者選手で、そのことを公表し堂々としている選手は、そう多くはいません」
「私とローリーにとっては、LGBTの障害者であることがスポーツ界の主流に受け入れられたのは、素晴らしいことだったと思います。かなりすごいことでした」
「メダルを夢見ることなどなかった」
ラヴ選手とウィリアムズ選手は一緒に暮らしている。そのため、ロックダウンの間は、互いに練習のペースを守ることができた。
2人はラブラドードルの子犬にも救われた。昨年、パラリンピック延期を知らせるメールを受け取って間もなく、迎え入れたのだった。
「すぐにインターネットにつなぎ、運よくウィスキーを見つけました。犬の価格が急騰する直前でした」とラヴ選手は思い起こす。「彼女は私たちの人生を明るくしています。非常に困難になり得た、そして実際にそうなった1年に、たくさんの喜びをもたらしました」。
現在は東京でパラリンピックが開催されており、ラヴ選手の歓喜は明らかだ。チームメートと共に活躍を続けている彼女は、リオ大会の4位を上回る成績を残すと、決意を固めていた。
イギリス代表チームは、ラヴ選手がテレビで見ていたロンドン大会の7位以降、順位を上げ続けてきた。東京大会では、ついにメダルに手が届くかと期待された。
しかし、予選リーグでカナダ、日本、ドイツに3連敗。オーストラリアには勝って、何とか本選に進んだ。
しかし、8月31日の準々決勝は中国に敗退。9月2日の7~8位決定戦でスペインと対戦することになった。
予選リーグが始まる前、ラヴ選手は、「これまでの実績からすれば、パラリンピックでメダルを取るなんて、イギリス女子代表チームは夢にも思わなかった」と話していた。「ぜひメダルを手に入れたい」。
「メガン・ラピーノだったと思いますが、オリンピックで銅メダルを勝ち取った時に、『銅ではない、ローズゴールドだ』と言いました。正直言って、私はどんなメダルでも誇りに思うでしょう」