ジェイムズ・クレイトン、ジャスミン・ダイアー、BBCニュース
来週開幕する北京冬季オリンピックは、スポンサー企業にとって、自社ブランドをアピールできる巨大なマーケティングの機会だ。
しかし、公式パートナー企業13社は、頭の痛い状況に直面している。
アメリカと中国の外交的対立の間で、身動きが取れなくなっているのだ。そのため多くの企業が、沈黙することを選んでいる。
アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダなどが、今回の冬季大会を外交ボイコットしている。ただ、選手は参加する。
それらの国々は中国に対し、少数民族ウイグル族に対して人権侵害をしている疑いがあることや、チベットと香港における行動をめぐって批判している。
BBCの分析では、オリンピックの国際スポンサーによる大会関連のツイートが、昨夏の東京夏季大会の時と比べて、大幅に減っている。
BBCはオリンピックのパートナー企業13社に、中国が人権侵害で非難されていることについてコメントを求めた。しかし、非難に関して直接言及した企業はゼロだった。
2008年北京オリンピックで米オリンピック委員会の最高マーケティング責任者を務めたリック・バートン氏は、多国籍企業が「綱渡り」状態にあるとBBCに話した。
「国際ブランドであるどの企業も、中国政府を中傷できないし、したいとも思っていないだろう」
東京では大騒ぎ
公式ワールドワイドパートナー企業は、米民泊仲介大手エアービーアンドビー(Airbnb)、中国電子商取引大手アリババ、独保険会社アリアンツ、仏ITテクノロジーのアトス、日本のブリヂストン、米コカ・コーラ、米インテル、スイス高級時計メーカーのオメガ、日本のパナソニック、米日用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、韓国サムスン、日本のトヨタ、米クレジットカード大手ビザ。
アリアンツ以外の各社は、昨夏の東京大会でもワールドワイドパートナーだった。同大会を前にした時期には、多くのパートナーがソーシャルメディアでコンテンツを発信し、大会の宣伝に熱を入れた。
例えば、アトスは開幕前にツイッターに数十回投稿。開幕日まであと何カ月、何週間、何日とカウントダウンするコンテンツをアップした。下のツイートでは、「東京2020まであとわずか20日!」などとした。
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アトスはまた、自社テクノロジーがオリンピックでどう活用されているかを説明する動画も投稿した。
他のワールドワイドパートナー企業にも、スポンサーとなっている選手やオリンピックに関係した新技術を紹介するツイートを定期的にしていた企業があった。
ところが、来月4~20日開催の北京冬季オリンピックを目前とした現在、それらの企業のアカウントにはオリンピックに触れた投稿がほとんど見られない。
「ビザ、コカ・コーラ、その他の企業は、異常なほどマーケティング活動を控えている」と、英調査会社エノド・エコノミクスのチーフエコノミスト、ディアナ・ショイレヴァ氏は話す。
彼女によれば、その原因はアメリカの外交ボイコットにある。
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国際オリンピック委員会(IOC)はワールドワイドパートナーについて、長期的なものであり、大会開催地を選ぶ立場にはないとBBCに説明した。
「商業パートナーは、オリンピックとパラリンピックの開催地選考には関わらない」
中国での大会開催が決まると、パートナー企業はジレンマを抱えることになった。
自分たちはオリンピックのスポンサーであり、開催地のスポンサーではない――。オメガは今回、その点をBBCに明確に伝えようとした。
「まず最初に、オメガは北京2022のスポンサーではないことを強調しておきたい」と、同社の広報担当は言った。そして、「オリンピックの公式タイムキーパーとデータハンドラー」だと付け加えた。
同社はソーシャルメディアで、過去のオリンピックをたたえる発信をしている。その量は、今年の北京冬季オリンピックに関するものよりはるかに多い。
問題はシンプルであり、これらスポンサー企業のPR会議で議題に上ることだろう。
中国で人権侵害が起きているとする非難に言及することなく大会を過度に支援すれば、西側で批判を浴びる。
他方で、中国政府を批判する声明を出せば、中国でのビジネス展開に悪影響が及びかねない。
アトスはBBCにこう話した。「オリンピック・パラリンピック大会のワールドワイドITパートナーとしての私たちの役割以外の問題については、コメントしない」。
前出のバートン氏は、企業が黙っているのは政治的な理由が絡んでいるが、別の要素も関係しているとみている。
「多くのこうしたスポンサー企業は、つい何カ月か前に、東京で多額の支出をしたばかりだ。少し疲れているし、予算が限られているという側面もあると思う」
「冬季大会は伝統的に、夏季大会ほど大々的ではない」
企業と中立
北京冬季大会については、国際企業に対して消えることのない問題を突き付けるとの見方もある。
「多国籍企業は、中国とアメリカが強大国の争いを繰り広げる中で、中立を保つのは難しくなってきていると感じるだろう」と、前出のショイレヴァ氏は言う。
世界で最も企業価値が高い米アップルは長年、この問題に取り組んできた。同社のサプライチェーン(供給網)は、中国の製造業者に大きく依存している。中国は同社にとって巨大市場でもある。
そうした中、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、中国に対する告発については無言だとして、たびたび批判されている。
オリンピックのパートナー企業各社は、人権を尊重していると表明している。しかし、世界ウイグル会議のズムレタイ・アーキン氏によると、中国の人権侵害の疑いについて話し合いたいと同氏がそれらの企業に連絡したところ、返事はなかったという。
「これらの企業は常に、包括性や人権などの美しい価値を大事にしていると言って、自社の価値観を宣伝している。しかし中国の問題になると、異常なほど静かになる」とアーキン氏は言う。
「カネが全てだ」
アリババはオリンピックのパートナー企業で唯一の中国企業だ。だが同社も、外交の綱引きに巻き込まれている。西側のソーシャルメディアでは、かなり静かなままだ。
「アリババはさまざまな弱みを抱えている」と、米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)の中国専門家スコット・ケネディ氏は話す。
「ニューヨーク株式市場に上場しているうえ、自社の貿易プラットフォームや電子商取引を通して、アメリカとかなりのビジネスをしている」
西側企業が中国を敵に回すのを恐れているのと同様、中国企業もアメリカを恐れている。中国企業の傘下にある動画アプリのTikTok(ティックトック)は、米大統領を怒らせると大変なことになると、痛い目をみながら学んだ。ドナルド・トランプ前大統領は2020年、同社アプリの米国内での使用を禁止した。
今後見られると思われるのは、2つの冬季オリンピックだ。1つは中国国内のオリンピックで、各ブランドは北京大会を大々的に宣伝する。もう1つは西側内でのオリンピックで、各ブランドは北京大会についてほとんど触れない。
例えば、アメリカでテレビを見れば、米国選手個人を取り上げた一部のものを除いて、北京冬季大会に言及した広告を目にするのはまれだ。
「表現の仕方が異なるだろうし、トピックも異なるだろう」と、ケネディ氏は話す。
「結果の解釈すら異なるだろう。そして、その溝でビジネスをしている企業は、両方に適応しなくてはならなくなる」
今回の北京冬季大会で多国籍企業は、この先を見抜く洞察力を得るかもしれない。全く異なる価値体系をもつ2つの超大国を、両方とも幸せにしようとすることで。